鹿児島県内の地質メモ

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  鹿児島の地質
 3."しらす"及び"ぼら"
  の分類と工学的性質
 4.四万十層群の地質
  特性について

  3."しらす"及び"ぼら"の分類と工学的性質
 
   1.“しらす”及び“ぽら”の成因と違い

両者とも軽石にやや火山灰が混じったもので(構成する割合は場合によって異なる)構成している物質に大きな違いはない。両者の違いは、噴火の様式が異なるために生じる(図−1)。

 (a)ぼ ら(降下軽石)

  小規模噴火の場合、上空に噴出した軽石や火山灰が火山ガスと分離して自由落下する。自由落下している間に噴出した軽石は冷やされ、火山灰と分離されて堆積する。このため、“ぼら”は軽石を主体としており、空隙が多く緩んだ状態となる。

 (b)しらす(火砕流堆積物、軽石流堆積物)

 大規模噴火の場合、上空でガスと軽石・火山灰が分離しきれず、両者が混合した状態で火山体斜面を流れ下る。この現象を火砕流と呼び、堆積物を火砕流堆積物という。堆積時にもかなり高温の状態を保っており、かつ火山灰等と分離していないため、“ぼら”と比較してかなり締まった状態 となる。
 高温のまま堆積して溶岩のように液体の性質を持った状態を“溶結”と呼び、固まった岩石を“溶結凝灰岩”という。比較的低温で、固体状態を保ったまま形成される部分を“非溶結”と呼ぶ。この非溶結の部分が“しらす”と呼ばれている。


図−1降下軽石(ぼら)と火砕流堆積物(しらす)形成の模式図
    (a)ぼら (b)しらす (火山灰アトラス1992に加筆)

 

   2.しらすの分類とエ学的性質

火砕流(20年前までは“軽石流”と呼ばれる場合が多かった)堆積物の一部または全部は溶結し、非溶結部に漸移する。狭義の“しらす”は軽石流堆積物の非溶結部のみを意味する。一方、強く溶結した部分は「溶結凝灰岩」であるが、南九州では古くからこれを“灰石”と呼び,しらすと区別されている
(九州地方土木地質図 昭和63年3月)。
 しらすの噴出源としては、北から加久藤カルデラ(霧島〜加久藤盆地)、姶良カルデラ(鹿児島湾刑部)、阿多カルデラ(鹿児島湾南部)、鬼界カルデラ(硫黄島〜竹島)などが考えられている。噴出時代は更新世後期(1〜30万年前)である。
土質工学の立場からは,工学的性質を重視した次のような用語で呼ばれている。

一次しらす :軽石流堆積物の非溶結部(狭義のしらす)。
二次しらす :軽石流・降下軽石堆積物の水中および陸上における二次堆積層。
固結しらす(硬しらす) :溶結度が弱い軽石流堆積物。
風化しらす :一次しらすおよび二次しらすの風化層,かなりの層厚をもって粘性土化している。
白しらす・赤しらす :しらすにそれらの色調を表わす語を冠したもの。白しらすは一次しらすに,赤しらすは風化しらすに対応する場合が多い。
ぼら :降下軽石に対して用いられる。この風化層は風化しらすと同様の性質をもつが,新鮮な降下軽石はしらすに含めない。
極軟質しらす・軟質しらす・中硬質しらすおよび硬質しらす :山中式土壌硬度計を用いて測定した指標硬度による地山しらすの判別分類名(土質工学会しらす基準化委員会,1979)。

大隅半島では、洪積層中に上下2層のしらす(軽石流堆積物と表記)が分布している。各地層の厚さは場所によって変化する。地表面付近の軽石流堆積物の模式的な層序を表−1に示す。しらす地帯の斜面崩壊は台地辺縁部で多発する。しかし,最近しらす層自体の崩壊は非常に少なくなり,軽石層,火山灰層,あるいは二次しらす層の崩壊が頻発している。崩壊形態は,土地利用の変化や防災対策の実施によって変化している。

地山しらすの工学的性質は溶結度や物理化学的成分によって異なる。それらの性質を総括的に,しかも単純に表現し得るものとしてしらす基質部の硬さが注目され,硬さによるしらすの分類法が提案されている。しらすの工学的分類方法は,軽石流堆積物を適用範囲とする,山中式土壌硬度計で測定された指標硬度を用いて行なわれている。判別分類結果は,地質構造,地下水状況等と合わせて切土工の設計施工等に利用されている(表−2)。

表−2 地山しらすの判別分類に基づく切土工の設計指針


      写真−2 しらす(一次しらす)の露出例               写真−3 ぼら(第4ぼら:風化したもの)
 

   3.ぼらの分類と工学的性質

 難波(1982)および土質工学会九州支部(1983)によれば,次のようにまとめられる。
 鹿児島,宮崎両県には,しらす層中に局部的に軽石だけの層がみられるところや,またしらす層の上を覆う新期火山灰層(黒ぼく等)の中にも軽石の層が挾まれているところがある。これらの軽石だけから成る層を,一般にぼら層(広義)と称している。農業をはじめとし,人間の生活に影響を及ぼすものは,後者の新期火山灰層に挾まれるぼら層(狭義)であり,大隅半島北部一帯で特に目立っている。
 大隅半島北部での模式的な土層断面4層のぼら層がある。第1ぼら層は大正3年(1914年)の桜島大爆発による“大正ぼら”,第2ぼら層は安永7~9年(1778〜1780年)の噴火による“安永ぼら”とされ,第3ぼら層は,享保1~2年(1716〜1717年)の噴火によるものとして「霧島ぼら」と呼ばれているが,噴出源は確定していない。第4ぼら層以下はさらに古く,軽石は風化して軟らかくなっており,噴出時代についてもはっきりしていない。大正ぼらと安永ぼらのおおよその分布は図−2に示すとおりである。


表−3 ぼらの識別

図−2 大隅半島北部における桜島系ぼら層の分布(鹿児島県,1957)

新規火山灰層中の、ぼら層は2mmから8mmの粒度を持ち,透水性が非常に高く,個々の粒子は乾燥密度約0.4t/m3で,圧縮強度も2〜50kgf/cm2である。斜面上にぼらが分布する場合、透水性が高いことから“水みち”となりやすく、斜面崩壊(表層すべり)の原因となることも多い。

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